JIS規格とJSS規格との関係
JIS規格制定にあたって
阪神大震災におけるアンカーボルト破断による露出柱脚の被害を契機として日本鋼構造協会では、塑性変形能力に富んだアンカーボルトの規格として建築構造用アンカーボルトセットの規格を2000年に制定し、2004年に改訂版を作成し、現在まで広く使用されてきている。
2010年10月にこの規格をもとにアンカーボルトのJIS規格が制定された。JIS規格は、JSS規格をベースとして作成されており、それぞれの規格の性格上、内容の表現その他にはかなりの差があるが、使用鋼材の材質、ボルト、ナット、座金の名称、形状・寸法、構造的な点に関する解説の内容等構造設計で使用する上で必要な内容に変わりはない。当面両規格が併存するが、設計上は何れの規格による製品を指定しても実質的な差は生じない。ただし、今後はJIS規格製品の普及に従って、JIS規格品に統一されるものと思われる。
2009年秋に日本鋼構造協会からJSS規格の製品を対象とした「建築構造用アンカーボルトを用いた露出柱脚設計施工指針・同解説」が刊行されていて、建築構造物の設計に徐々に利用されるようになってきているが、この指針は、上に述べた事情を考慮すれば、当然JIS規格品についても適用されるものであり、今回のアンカーボルトセットのJIS 化によって構造性能に優れた露出柱脚の更なる普及に大きく貢献するものと考えられる。
現在、建築基準法上は、アンカーボルトセットについては明確に規定されておらず、ボルトが直線状の鋼棒の両端にねじを加工したものとして鋼材の扱いとなっているが、ナット、座金については全く規定がない。この点では、JIS規格のアンカーボルトもSS材の棒鋼にねじを加工したアンカーボルトも法的な扱いに差はないものとなっている。
しかし、JIS規格としてアンカーボルト、ナット、座金がセットとして制定されたことは画期的であり、建築基準法では原則として構造材にはJIS規格品を使用することが規定されていることを考慮すると、今後構造品質が保証されたアンカーボルトセットとして法的に認知された使用に道が開ける可能性があり、この点は大いに期待する次第である。
JIS B 1220,1221原案作成委員会委員長
宇都宮大学名誉教授
田中淳夫
JIS規格とJSS規格との関係
社団法人 日本鋼構造協会は、主として露出形式柱脚に使用されるアンカーボルトのセットを「JSS U 13 建築構造用転造ねじアンカーボルト・ナット・座金のセット」と「JSS U 14 建築構造用切削ねじアンカーボルト・ナット・座金のセット」として日本鋼構造協会規格(JSS規格)として2000年6月に制定しました。同年12月には建築用アンカーボルトの品質向上を通して建築業界ならびに社会に貢献することを目的に、建築用アンカーボルトメーカー協議会(略称 JFMA)が設立されました。JSS規格はねじに関するJIS規格や建築用ターンバックルのJIS規格の改正に伴い2004年3月に規格改正されました。2005年9月にはJSS規格に使用しているナットのJIS規格が2009年12月をもって廃止(その後2014年12月まで廃止は延長された)になること、及び建築用アンカーボルトメーカー協議会の設立趣旨の1つであるJIS規格化を実現するために、建築用アンカーボルトメーカー協議会内にJIS規格化研究分科会を設立し、原案の検討、作成を行いました。その後JSS規格の内容を発展した内容で「JIS B 1220 構造用転造両ねじアンカーボルトセット」と「JIS B 1221 構造用切削両ねじアンカーボルトセット」として2010年10月20日に公示されました。JIS規格が公示されたことでJSS規格は廃止されるのではなく、移行期間として4年間はJSS規格も併存し適用されます。もちろん、その形状、寸法、性能は同じです。
JIS規格の内容
| セットの種類を表す記号 | ボルトの 材料 |
最小引張強さN/mm2 | ナットの強度区分 | 座金の硬さ区分 | 素材降伏比 | 加工方法 | ねじの種類 | 規格範囲 | |
| ABR400 | 炭素鋼 | SNR400B | 400 | 5J | 200J | 80%以下 | 転造ねじ | メートル並目ねじ | M16〜M48 |
| ABR490 | SNR490B | 490 | |||||||
| ABR520SUS | ステンレス鋼 | SUS304A | 520 | 50 | |||||
| ABM400 | 炭素鋼 | SNR400B | 400 | 5J | 200J | 75%以下 | 切削ねじ | メートル細目ねじ | M24〜M48 |
| ABM490 | SNR490B | 490 | M24〜M100 | ||||||
| ABM520SUS | ステンレス鋼 | SUS304A | 520 | 50 | メートル並目ねじ | M24〜M48 | |||
JIS規格の解説
露出形式柱脚部の大地震時における必要回転角は0.03rad程度とされており、アンカーボルトの塑性変形のみによってこの回転量を確保すると仮定すれば、有効長さ(le;アンカーボルトの降伏伸びを期待する軸部の範囲)20dで3%の一様伸びに対応する塑性変形があれば構造特性が確保されることが確認されました。そこで当規格においては、アンカーボルト破断までの一様伸びが3%以上となることを保証することとしました。
構造用アンカーボルトの強度は、炭素鋼製品では400N/mm2と490N/mm2、ステンレス鋼製品では520N/mm2の3種類あります。
炭素鋼製品のアンカーボルトの素材として、JIS G 3138(建築構造用圧延棒鋼)SNR400B、SNR490B、ステンレス鋼製品のボルトの素材として、JIS G 4321(建築構造用ステンレス鋼材)SUS304Aをベースとして、さらに厳しい条件を設けた材料を用いることによって、所定の一様伸びを確保しています。
従来のJSS規格では炭素鋼製品のみでしたが、ステンレス鋼構造物へ対応するためにJIS規格ではステンレス鋼製のアンカーボルトを制定しました。
構造用アンカーボルトのねじ加工方法には転造ねじと切削ねじがあります。
必要な力学性能確保の観点から、100mm程度までのボルト径を想定し、加工実績と設備能力からABR(転造ねじ)はM16〜M48、ABM(切削ねじ)はM24〜M100(ステンレス鋼製はM24〜M48)のサイズを規格しています。
ABMでは細目ねじを採用しています。これはアンカーボルトのねじ部有効断面積(Ae)の軸部断面積(Ag)に対する比率を並目ねじよりも大きくし、アンカーボルトの伸び性能を確保するためです。
ステンレス鋼製アンカーボルトABM520SUSは切削ねじですが並目ねじを採用しています。これはステンレス鋼の降伏比が65%以下と低いため、並目ねじであっても充分な軸部の伸び性能を確保出来るからです。
構造用アンカーボルトのセットの構成は、アンカーボルト1本、ナット4個、座金1枚からなっています。
アンカーボルトの標準寸法は両ねじタイプでねじ長さは3d以上、アンカーボルトの全長は25d以上、ねじの無い部分の長さが15d以上必要です。
ナットや座金は従来のJSS規格で規定されたナットや座金をベースにしてJIS B 1220附属書に規定された構造用六角ナットや構造用平座金を使用します。構造用六角ナットは、管理の煩雑さと誤使用を防止するため1種類に統一しました。
構造用アンカーボルトセットに使用する定着板は、本カタログの7ページに記載している定着板を使用することを本協議会で推奨しています。
溶融亜鉛めっきを施したアンカーボルトセットにはJISマークの表示はできません。
JSS規格では表面処理について規定はありませんでしたが、JIS規格となっても表面処理の規定はありません。しかしながら、市場では溶融亜鉛めっきを施したアンカーボルトの要求がありますので、溶融亜鉛めっきを施した場合にはねじのはめ合いを考慮してJIS H 8641溶融亜鉛めっきに規定するHDZ35とすることを推奨しています。また、溶融亜鉛めっきをはじめとする表面処理を施す場合には、受渡当事者間協定によると規定されています。
アンカーボルトのセットの呼び方は次のようになります。
例1) 構造用転造両ねじアンカーボルトの炭素鋼製品、引張強さ400N/mm2、ねじの呼びM30、ボルトの長さ900mm、座金の取付け側のねじ長さが120mm、定着板取付け側のねじ長さが120mmのセットの場合。
例2) 構造用切削両ねじアンカーボルトの炭素鋼製品、引張強さ490N/mm2、ねじの呼びM72、ボルトの長さ2,200mm、座金の取付け側のねじ長さが300mm、定着板取付け側のねじ長さが250mmのセットの場合。
例3) 構造用転造両ねじアンカーボルトのステンレス鋼製品、引張強さ520N/mm2、ねじの呼びM36、ボルトの長さ1,080mm、座金の取付け側のねじ長さが110mm、定着板取付け側のねじ長さが110mmのセットの場合。
| 記号番号 | セットの種類を表す記号 | ねじの呼び×ボルトの長さ | 両端のねじ部長さ | |
| 例1 | JIS B 1220 | ABR400 | M30×900 | S=120×120 |
| 例2 | JIS B 1221 | ABM490 | M72×2,200 | S=300×250 |
| 例3 | JIS B 1220 | ABR520SUS | M36×1,080 | S=110×110 |