建設用アンカーボルト規格
JIS規格改訂にあたって
現在、建築構造物の露出柱脚で最も広く使われている構造用アンカーボルトは、ねじ部降伏に先立って軸部が降伏することを保証した十分な塑性変形能力を確保したJIS規格品(転造ねじアンカーボルトABRと切削ねじアンカーボルトABM)である。このアンカーボルトの規格は、2000年に日本鋼構造協会が初めて制定し、その後2010年に内容の大きな変更がない状態でJIS規格となり、現在に引き継がれてきている。 このJIS規格が2015年12月に改正された。改正されたJIS規格の主な内容は、以下に示されている通りである。
今回の規格改正の主な点は、これまでABRとABMの二つに分かれていた規格を統合したことであるが、その他、ABRについてねじの呼びM18を追加した。また、ボルトセットの表面処理として溶融亜鉛めっき(HDZ35)および電気めっきを追加したことであり、ABMを含め、その他の内容に変更はない。
これまで構造用アンカーボルトの規格はABRとABMの二つに分かれていた。これはアンカーボルトねじ部の加工方法の違いとボルトに使用する鋼棒の径および材質における多少の違いによるためであった。しかし、ABRアンカーボルトとABMアンカーボルトの構造特性の差は、構造設計上の観点から見れば必ずしも大きいものではないことから、今回のJIS規格改正で両者の規格を統一したものである。
なお、構造用アンカーボルトの建築基準法における位置付けは、現在、法的に見た場合必ずしも明確なものとはなっていない。すなわち、構造用アンカーボルトは、主要構造部に使用する建築材料の一種であるが、建築基準法第37条における指定建築材料とはなっていない点に多少の問題がある。
しかし、構造設計者が拠り所としている「2015年版建築物の構造関係技術基準解説書」では、伸び能力のあるアンカーボルトとしてJIS規格材であるABR、ABMが明示されている点と、これらのアンカーボルトの使用に関しては建築確認申請の際に問題となることはなかった点から考えて、JIS規格材である構造用アンカーボルトの利用面で実質的な問題はないといえる。
今後ともJIS規格材である構造用アンカーボルトの更なる普及を願う次第である。
JIS B1220原案作成委員会委員長
宇都宮大学名誉教授
田中淳夫
JIS規格の統合について
2010年10月20日に制定された「 JIS B 1220 構造用転造両ねじアンカーボルトセット」 と「 JIS B 1221 構造用切削両ねじアンカーボルトセット」は統合され、2015年12月21日に「 JIS B 1220 構造用両ねじアンカーボルトセット」に改正されました。
全国のアンカーボルトメーカーは、2016年12月20日までに、JIS B 1220:2015へ切り替えを行います。切り替えまでの移行期間内は、上記のJIS規格が混在しますが、アンカーボルトの性能に差はなく、同様のものとしてご利用頂けます。
主な改正点
JIS B 1220:2010および JIS B 1221:2010 |
JIS B 1220:2015 | ||
JIS B 1220:2010 およびJIS B 1221:2010 |
JIS B 1220にABR規格が規定され、 JIS B 1221にABM規格が規定されている。 |
JIS B 1220とJIS B 1221が統合され、 JIS B 1220にABR規格とABM規格が規定されている。 |
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ABR規格にM18が追加 |
ABR規格のねじ加工範囲は、 M16〜M48の12種類が規定されている。 M33、M36、M39、M42、M45、M48) |
ABR規格において、M18が追加され13種類が規定されている。 M33、M36、M39、M42、M45、M48) |
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表面処理にめっきが追加 | 規定されていない。 | ABR400およびABR490は“溶融亜鉛めっき”もしくは“電気めっき”の指定が可能。 ABM400およびABM490は“電気めっき”の指定が可能。 |
JIS規格の内容
規格 |
セットの種類を 表す記号 |
ボルトの材料 | 最小引張強さ | 降伏比 |
ねじの 加工方法 |
ねじの種類 |
ナットの 強度区分 |
座金の 硬さ区分 |
ねじ呼び径 サイズ |
選択可能な表面処理 |
ABR | ABR400 | SNR400B | 400N/mm² | 80%以下 | 転造 | メートル 並目 | 5J | 200J | M16〜M48 | 溶融亜鉛めっき又は電気めっき |
ABR490 | SNR490B | 490N/mm² | M16〜M48 | |||||||
ABR520SUS | SUS304A | 520N/mm² | 65%以下 | 50 | M16〜M48 |
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ABM | ABM400 | SNR400B | 400N/mm² | 75%以下 | 切削 | メートル細目 | 5J | 200J | M24〜M48 | 電気めっき |
ABM490 | SNR490B | 490N/mm² | M24〜M100 | |||||||
ABM520SUS | SUS304A | 520N/mm² | 65%以下 | メートル並目 | 50 | M24〜M48 |
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JIS規格の解説
露出形式柱脚部の大地震時における必要回転角は0.03rad程度とされています。アンカーボルトの塑性変形のみによってこの回転量を確保すると仮定すれば、有効長さ(le;アンカーボルトの降伏伸びを期待する軸部の範囲)20dで3%の一様伸びに対応する塑性変形があれば構造特性が確保されることが確認されました。
そこで当規格においては、アンカーボルト破断までの一様伸びが3%以上となることを保証しています。
構造用アンカーボルトのセットの構成は、アンカーボルト1 本、ナット4 個、座金1 枚です。(※ 規格に定着板は含まれていません)
アンカーボルトの標準寸法は両ねじタイプでねじ長さは3d以上、アンカーボルトの全長は25d以上、ねじの無い部分の長さが15d以上必要です。
構造用アンカーボルトにセットする定着板については、協議会カタログの7ページに参考数値を掲載しています。
構造用アンカーボルトの強度は、炭素鋼製品では400N/mm² と490N/mm²、ステンレス鋼製品では520N/mm² の3 種類あります。
炭素鋼製品のアンカーボルトの素材として、JIS G 3138(建築構造用圧延棒鋼)SNR400B、SNR490B、ステンレス鋼製品のボルトの素材として、JIS G 4321(建築構造用ステンレス鋼材)SUS304Aを用いています。炭素鋼製品のABM400及びABM490では、降伏比75%以下という条件を追加しています。これらの材料を使用する事で、所定の一様伸びを確保しています。
構造用アンカーボルトのねじ加工には転造ねじと切削ねじがあります。
必要な力学性能確保の観点から、100mm程度までのボルト径を想定し、加工実績と設備能力からABR(転造ねじ)はM16〜M48、ABM(切削ねじ)はM24〜M100(ステンレス鋼製はM24〜M48)のサイズを規格しています。
ABMでは細目ねじを採用しています。これはアンカーボルトのねじ部有効断面積(Ae)の軸部断面積(Ab)に対する比率を並目ねじよりも大きくし、アンカーボルトの伸び性能を確保するためです。
ステンレス鋼製アンカーボルトABM520SUSでは切削“並目”ねじを採用しています。これはステンレス鋼の降伏比が65%以下と低いため、並目ねじであっても充分な軸部の伸び性能を確保出来るからです。
表面処理の指定が可能です。
改正されたJIS規格には表面処理が追加され、ABR400とABR490は溶融亜鉛めっき又は電気めっき、ABM400とABM490は電気めっきを施すことが可能となりました。
ABR400とABR490の溶融亜鉛めっきはナットのはめ合いを考慮してHDZ35と規定しています。
ABM400とABM490は細目ねじ成形のため、ねじ山が密となり、溶融亜鉛めっきを施すとねじ山が埋まり勘合不良が発生する可能性が大きいため、溶融亜鉛めっきよりも付着膜厚が薄い電気めっきのみの規定となっています。
なお、表面処理には、アンカーボルト全体に表面処理を施す方法や、ねじ部に表面処理を施す方法等が有りますので、ご指定頂きますようお願い致します。