アンカーボルトQ&A

はじめに
  • 構造用アンカーボルトとは何ですか?

    鋼構造物において上部構造と基礎コンクリートを接続する重要な部品であり、特に露出形式の柱脚に用いられるアンカーボルトは、上部建築物の負荷を受け持つと共に、地震時の大きな塑性歪も受け持って、建築物の倒壊を防ぐ役割を担っています。

  • JIS B 1220規格とは何ですか?

    日本鋼構造協会(JSSC)によって設定された建築構造用アンカーボルトセット(JSS規格)を前身規格とし、2010年10月に制定された塑性変形能力に富んだアンカーボルトの規格です。当時はJIS B 1220とJIS B 1221の2規格でしたが、2015年12月の改正で、JIS B 1220 1規格に集約されました。

  • ABR、ABMとは何ですか?

    ABRは、材質がSNR400B又はSNR490Bで、ねじ部を転造するのに必要な下径に調整された素材に、そのままねじ転造した両ねじアンカーボルトセットのことを言います。またABMは、材質がSNR400B(ただし降伏比75%以下)またはSNR490B(ただし降伏比75%以下)で、規定された寸法公差の鋼棒に、切削細目ねじ加工した両ねじアンカーボルトセットのことを言います。

  • なぜ、JIS規格のSNR材アンカーボルトが必要なのですか?

    地震時の大きな塑性歪を受け持つには、アンカーボルト自体が破断するまでに、十分な塑性変形能力を持つことが要求されています。この点を保証するために降伏点や降伏比を規制した、JIS G 3138(建築構造用圧延棒鋼)のSNR鋼を用いたアンカーボルトを使用することが必要です。

  • SNR鋼とは何ですか?

    SNR鋼とは、JIS G 3138「建築構造用圧延棒鋼」のことで、耐力のほか従来のSS材では保証されていない、地震時に必要となる伸び能力や、溶接部の性能保証など建築構造用材料として必要な性能をもっています。

  • どこに注文すればよいのですか?

    建築用アンカーボルトメーカー協議会はボルト及び部品メーカーで構成しています。建築用アンカーボルトメーカー協議会は、JIS規格品のアンカーボルトの普及と品質の向上を通して、社会に貢献することを目指し設立されました。会員は全国に所在していますので、ご注文やお問い合せはお気軽にご連絡下さい。

  • どう記入すればJIS規格品が指定できますか?

    「ABR」「ABM」と仕様書や設計図書に明記してください。また規格製品の詳しい内容については協議会発行のパンフレットをご覧ください。 パンフレットはHPに掲載されている協議会会員企業にありますので、ご連絡ください。またHPにある技術資料からもダウンロードも可能です。

材料
  • SNR鋼とSS鋼の違いは?

    これまで建築用鋼材は、一番手ごろな鋼材として一般構造用鋼であるSS鋼が使用されてきました。1996年に新しくJIS規格として制定された建築鋼構造用のSNR鋼は、建築構造にふさわしい優れた性能をもった鋼材です。地震時、耐震性能に必要となる伸び能力や溶接部の性能保証などから、SS材より機械的性質や化学成分が厳しく規定されています。

  • SNR鋼とSS鋼の見分け方は?

    SNR鋼は従来のSS鋼と外観では区別できません。鋼材のミルシート管理に頼るしかありません。そのため、アンカーボルト等を発注されるときは、協議会会員をはじめとする信頼できるメーカーへご依頼ください。協議会会員は素材から製品までトレーサビリティーができるよう、JIS認証取得をはじめ、品質の保証に全会員で取り組んでいます。

  • ミルシートの管理の方法は?

    JIS規格アンカーボルトの性能は主にSNR鋼の鋼材品質が重要な決め手になっています。協議会の会員メーカーでは日本建築学会の「建築工事標準仕様書JASS6(鉄骨工事)のミルシート管理」にそって鋼材の履歴を保証しています。建築用アンカーボルトメーカー協議会では合わせて素材から製品完成までのロット追跡・トレーサビリティーも保証して、お客様に安心していただける品質保証を推進する製作工場の認定活動も行っています。

  • SNR鋼とSN鋼の違いは?

    鋼材の成分や性能については全く同一のものです。SN鋼(JIS G 3136)は1994年に制定され、建築構造用圧延鋼材(鋼板、鋼帯、平鋼、形鋼)を対象としたものです。またSNR鋼(JIS G 3138)は1996年に建築構造用圧延棒鋼(丸鋼、角鋼、バーインコイル)として制定されました。

  • SN鋼・SNR鋼とSM鋼との違い(特にA,B,C)は?

    SN鋼・SNR鋼はSM鋼をベースとして鉄骨建築に求められている強度、伸びなどの特性が強化された鋼材です。従って、SN鋼およびSNR鋼は、建築構造用の鋼材としてはSM鋼の上位バージョンに該当します。溶接性の保証をねらっているSM鋼のA、B、C種の意味は「シャルピー吸収エネルギーの規定値の違い」を表しており、SN鋼・SNR鋼のA,B,Cの意味は「使用部位の違い」を表しています。A種は溶接しない補助部材用、B種は主要構造部材または溶接する部材用として、C種はさらに板厚方向特性が必要な部材用となっています。

  • SNR鋼の成分の特徴は?

    これまでのSS鋼(JISG3101)の成分規定値は、不純物であるP(リン)とS(イオウ)の含有上限値のみが定められているだけでした。SNR鋼は化学成分のうち、溶接性の保証のためMn(マンガン)の含有量に上限値と下限値を設け、さらにSS鋼より不純物のPとSの上限値をきびしく抑えています。

  • SNR鋼の強度の特徴は?

    SNR鋼の引張強度は400N/mm²と490N/mm²の2種類で従来のSS鋼とは同じですが、その他に伸びや降伏点の範囲、降伏比などが規定されています。

  • 降伏比を満足するSNR材は入手できるか?

    現在降伏比75%以下の性能を有するSNR鋼を製造する製鋼メーカーは全国で4〜6社となっており、鋼材市場の一部でも在庫品小売が始まっています。また協議会会員が各種サイズのSNR鋼を在庫してより良い製品をより早くお届けする体制ができています。

  • 降伏比の意味は?

    「降伏比」は鋼材の「降伏点」を「引張強さ」で割った値です。その意味は引張強さの何%の応力で降伏(塑性伸び)するかを表しています。即ち降伏比が低いほど鋼材の降伏後の伸び能力と耐力上昇が大きくなります。構造用アンカーボルトは地震時の大きな塑性歪を吸収し、ボルト降伏後の伸びや耐力を保証するために降伏比を低くしています。降伏比の規制のない材料で製作したアンカーボルトは軸部が塑性変形する前に、ねじ部破断をおこす可能性が大きいのです。

  • ABM400、ABM490の降伏比が75%以下となっている理由は?

    製鋼メーカーより鋼材の安定供給を得るために、前身規格であるJSS規格の2004年版で75%以下に統一改定されました。ねじ部の破断に先だって軸部全体の降伏が先行し、アンカーボルトとして必要な塑性変形を確保するため、軸部に対するねじ部の有効断面積比が降伏比より高くなければなりません。切削ねじであるABMではこの条件を満たすため、ABM400とABM490のアンカーボルトでは細目ねじに統一し、降伏比を75%以下に改定しています。

  • 構造用アンカーボルト規格の材料は建築基準法の指定材料か?

    2000年改正された建築基準法で、はじめてSN鋼(JIS G 3136)とSNR鋼(JIS G 3138)が指定材料に入りました。構造用アンカーボルトの材料は、JIS規格のSNR鋼より厳しい規制値を設けた建築基準法の指定材料です。

  • JIS規格アンカーボルトは、公的に伸び能力の有るアンカーボルトとして利用出来ますか?

    2015年度版建築物の構造関係技術基準解説書P.628に伸び能力の有るアンカーボルトとして使用出来る旨が解説されています。

  • 材料径の公差の厳しいJIS規格を満足する材料は入手できるのか?

    現在SNR材を製造している製鋼メーカーは4〜6社です。製造している材料のほとんどは厳しい公差ですが、規格の範囲を満足しています。なお、ABRはアンカーボルトのねじ精度を保証するために、又ABMはアンカーボルトの性能を保証するために、厳しい寸法公差が必要になっています。

  • ユーザーへの品質保証は?

    製造工程でのロット管理や製品寸法検査を行ってアンカーボルト・ナット・座金のセットとして製品検査成績書を発行して品質を保証しています。

  • JIS規格アンカーボルトとJSS規格アンカーボルトの違いは何ですか?

    JIS規格は経済産業省が管理する国家規格で、JSS規格は社団法人日本鋼構造協会が管理する規格です。2000年に制定されたJSS規格をより解りやすくブラッシュアップした規格がJIS規格になります。製品の性能と規格の内容については基本的な違いはありません。また、JIS規格にはステンレス鋼製アンカーボルト規格もあります。JSS規格アンカーボルトの規格は存続していますが、工場認定制度が2015年3月末に終了しており、現在はJIS規格アンカーボルトが利用されています。

  • ステンレス鋼製アンカーボルトの強度について、400N/㎟と同等で検討するとのことですが、
    SNR400Bよりもステンレス鋼SUS304Aのほうが強度が高いのではないでしょうか?

    素材の引張強さで比較すると炭素鋼SNR400Bが400N/㎟、ステンレス鋼SUS304Aが520N/㎟とステンレス鋼のほうが高いですが、降伏点で比較するとSUS304AとSNR400Bは235N/㎟と同等です。従って、ステンレス鋼製アンカーボルトは炭素鋼製アンカーボルトと同等として設計の検討をします。

ねじ
  • 転造ねじと切削ねじの加工方法の違いは?

    転造ねじは転造ダイスの間に丸棒を挟み込んで塑性変形によってねじ山を成形します。切削ねじは丸棒または刃物を回転し、丸棒からねじの谷部を削り取ってねじ山を造ります。

  • 転造ねじと切削ねじの形状や性能の違いは?

    転造ねじは、ファイバー(金属組織の流れ)が切断されず、特にねじ底部はファイバーが圧縮されているので、ねじ部の強度は軸部とほとんど同じです。一方切削ねじは、ファイバーが切断されてねじ形状を作るのでねじ谷は強化されず、ねじ部は軸部より断面積が小さいため強度は弱くなっています。同じサイズのABRとABMでは降伏耐力や破断までの塑性伸びが違いますが、いずれもJIS規格で要求する性能を満足しています。

  • ABR(転造ねじ)で下絞り転造ではいけないのか?

    ABR(転造ねじアンカーボルト)は、ねじの有効径にほぼ等しい外径の丸棒を使用して、軸部に直接転造したものです。ねじ部だけを下絞りして有効径に加工したものに転造したものは、ねじ部の断面積が軸部断面積より小さくて強度が弱く、伸びも小さく性能が劣ります。 よって、JIS規格品では下絞り加工品は認めていません。

  • ABR(転造ねじ)で有効断面積や強さの計算は、JISブレースと異なるのか?

    SNR400B材を使用するJISブレースは、転造用丸棒の外径の最小値を基準として、断面積を計算しています。一方、同素材を使用するABR400(転造ねじアンカーボルト)は軸部、ねじ部共基準径を用いて標準性能として表しています。両規格とも同じ径の素材を使用していますが、計算基準の違いにより公称耐力には違いが出ています。

  • ABR(転造ねじ)は、なぜM48までしかないのか?

    転造ねじは性能が優れ量産にも向いているのですが、M48を超える大きなサイズでは、転造盤、転造ダイスも大きく高価となり、現実的には供給できません。そこで太径の場合は比較的生産が容易な切削ねじのABMでM100までのサイズを準備しています。

  • ABM(切削ねじ)の材料は、なぜ降伏比が小さいのか?

    切削細目ねじは、ねじ部が軸部の85%程度の断面積となっているため、軸力が作用すると、ねじ部のみが集中的に伸びるため、降伏点をある程度以下に抑えた伸びやすい材料を使わないと、構造用アンカーボルトが求めるアンカーボルト全体の伸びは期待できません。そのため、ABM400、ABM490では75%以下と定められています。

  • ABM(切削ねじ)はなぜABR(転造ねじ)より伸びが小さいのか?

    転造ねじは、ねじ部と軸部の強度がほぼ等しいのでアンカーボルト全体が伸びます。一方切削ねじは、ねじ部が先に降伏し伸びている間に、軸部が遅れて降伏しますが、軸部が十分降伏して伸びる前にねじ部が破断してしまいますので、全体の伸びは小さくなります。

  • ABM(切削ねじ)はなぜ細目ねじか?

    ABMを並目ねじにした場合、アンカーボルトとしての伸び能力を保証するため、軸部に対するねじ部の有効断面積比を降伏比より高く(112%以上)にすることが必要で、降伏比を70%以下に下げなければなりません。しかし、鋼材メーカーでは降伏比は75%以下しか安定して保証できないとのことですので、ABMはねじ部有効断面積が並目より大きくなる細目ねじにしています。

  • ABM(切削ねじ)の有効断面積や強度の計算の基準は?

    切削ねじの降伏や破断はねじ部分で起こるので、アンカーボルトの耐力や引張荷重はねじ部有効断面積にF値や引張強さ(最小値)を掛けて求めます。なお、JISではこれらの値は、基準寸法のねじ部有効断面積に掛けて求めた標準性能として表されています。

  • ABM(切削ねじ)はなぜM22以下がないのか?

    ABMの細目ねじのM22以下では、アンカーボルトの伸び能力を確保するに必要な、軸部に対するねじ部有効断面積比(112% 降伏耐力比より大きな)が得られないため設定されていません。

  • ABM(切削ねじ)はなぜM100超えがないのか?

    構造用アンカーボルトは、10階建て以下の中低層建築物に使用される露出形式の柱脚用のアンカーボルトとして設定されています。過去の使用実績調査の結果、ボルトサイズはM100以下で充分とわかりましたので、ABMもM100を上限にしています。なお、M100を越えたアンカーボルトもJIS規格に準じて製作が可能ですので、必要な場合は当協議会会員にご相談下さい。

  • ねじ外径の測定はいらないのか?

    ねじ外径の測定は必要です。ノギスなどで測定し、JISB0209-3の公差域クラス8gの精度に入っている事を確認します。

  • ねじ精度はどのように測るのか?

    アンカーボルトなどのおねじの精度は、限界ゲージ(リンクゲージ)をネジ部にねじ込んで測定します。規格範囲内の適正なボルトは、通りゲージはねじの根元までスムーズにねじ込まれ、止まりゲージはねじ山には入っていきません。リングゲージはねじの有効径が適正範囲内にあることを知る為の器具で、ねじピッチも同時に確認できます。

  • 8gの意味は?

    ねじの基準寸法「JIS B 0209-3」 公差域8gのことです。アンカーボルトなどのおねじの公差で、外形、有効径、谷径の基準寸法に対する最大・最小の範囲を規定しています。

  • 旧3級ねじ用ゲージは「8g」用として使えるか?

    「旧3級」の有効径の最大値最小値は、両方とも「8g」の有効径の最大値・最小値の内側に入っているので、実用上は使用しても問題ありません。但し、ねじについて現在のJIS規格(JIS B 0209-3:2001)では、「旧3級」は残っていませんので、正式の「8g」のリングゲージを使うのが原則です。

  • 通りゲージ、止まりゲージは何を検査しているのか?

    リングゲージは、有効径とねじピッチを確認しています。通りゲージは有効径より大きく作ってあり、止まりゲージは有効径より小さく作ってあるので、通りゲージがスムーズにねじ込め、止まりゲージがねじ込めないのが適正な有効径のねじです。なおねじピッチが基準寸法で作られているか否かは、通りゲージをスムーズにねじ込まれることにより確認できます。

ボルト
  • なぜ両ねじか?

    鋼構造建築物の露出型式柱脚では、アンカーボルトの抜け出しを防ぐため、コンクリートに埋め込まれた端部で定着金物に緊結することにしています。そのためボルトは両ねじになっています。

  • なぜ面取りが必要か?

    面取りの有無がアンカーボルトの性能に影響することはありません。しかし、運搬時あるいは施工時などに、作業者の安全と、アンカーボルトのねじの端面にきずが付き、ナットが入りにくくなる等の不具合を防ぐために、面取りをしています。

  • ドブめっき(溶融亜鉛めっき)はできるのか?

    ABR400及びABR490には溶融亜鉛めっきが可能です。両ねじの片側のみ溶融亜鉛めっき処理するのか、アンカーボルト全体を溶融亜鉛めっきするのか、ご指示ください。なお、ABR400及びABR490は、他に電気めっきも可能です。電気めっきの場合は全体のめっき処理になります。ABM400及びABM490は細目ねじの為、電気めっきのみとなります。

  • 定着長さとは?

    2009年10月発刊の建築構造用アンカーボルトを用いた露出柱脚設計施工指針・同解説(日本鋼構造協会)によると、定着長さはベースモルタル下端から定着板上端までの距離に相当します。

ナット
  • なぜ強度区分5Jか?

    JIS B 1220規格のボルト強度区分は、400N/㎟と490N/㎟の2種類ですが、共通に使用できるようにナットの機械的性質を490N/㎟級の1種類として、ナット強度区分5Jとしています。

  • ABR400またはABM400で、強度区分4は使えるか?

    アンカーボルトとしての性能上では問題ありませんが、JIS B 1220規格では規定するナットの強度区分5Jとしているため、強度区分4を使用すると規格外となります。

  • ナットの試験方法は?

    JIS B 1052規格による呼び径M39までの強度区分5のナットに要求される機械的性質の試験方法は、ナットの硬さ試験及び保証荷重試験です。M39 を超えるナットについての保証荷重試験は、JIS規格の規定外のため、特に指定のない限りナット硬さ試験により強度の確認を行っています。

  • 強度区分5Jの保証の仕方は?

    特に要求ない限り、あらかじめ製造メーカーにて出荷前にロット毎に3個の抜取検査によって前記の硬さ及び保証荷重試験を実施し、規格要求事項を満足することを確認し、その結果は検査成績書に記載しています。

  • 両端ねじ部にナットが2コ必要な理由は?

    露出形式柱脚アンカーボルトでは、ベースプレートをとめる部分で戻り止めが必要であるため、2重ナットとしてベースプレート側にナットを2個使用します。 また、コンクリートに埋まるアンカーボルトの定着板側にも定着板を両側から固定するためナットを2個使用します。

  • アンカーボルトの締め付けトルクはどの程度でしょうか?

    アンカーボルトの締め付けは、基本的にベースプレートの支圧と緩み止めの考え方です。そのため、一定の目標トルクで一次締め後にナット回転法で30°〜10°の範囲で本締めをすることとしています。また、ベースプレートのすべりによるアンカーボルトのせん断についての検討も必要です。詳しいデータは、日本鋼構造協会が発行している「建築構造用アンカーボルトを用いた露出柱脚設計施工指針・同解説」に記載していますので、参考にしてください。

座金
  • HV,HRC,HBとは何か?

    鋼材等の硬さを表す試験方法の種類による記号で、HV,HRC,HBはそれぞれビッカース硬さ、ロックウェル硬さ、ブリネル硬さを表記するときの記号です。各試験方法とも、硬さを測定する鋼球もしくはダイヤモンド圧子で測定物を一定荷重で押しつけ、そのときに発生したクボミの大きさ(直径、深さ等)で測定物の硬さの硬軟を表しています。なお、一般的に硬さと強度は比例関係にあります。

  • なぜ硬さHV200~400か?

    座金に必要な最小硬さを座金の厚さと組合されるボルト、ナット、ベースプレートから検討した結果、座金の機械的性質は600N/㎟≒HV190以上となるためです。基本的に、ボルト、ナット、座金のセットの場合、座金が一番硬い事が望ましいので200HVから400HVとしています。

  • 座金をベースプレートに溶接してよいか?

    JIS B 1220規格で使用される座金については、溶接加工することを想定していない為、座金使用材料としては機械構造用炭素鋼(SC)材等が一般に採用されており、 ボルト材料のSN材のように溶接割れ等の溶接欠陥発生防止の配慮について規定されていません。 また溶接の熱影響によりベースプレート自体に熱変形ひずみが生じる可能性もあり、座金を直接ベースプレートに溶接することについては、望ましいことではありません。アンカーボルトのせん断耐力で作用せん断力に抵抗させる設計の場合、ベースプレート上にボルト孔クリアランスを0.5mmとした鋼板(板厚12mm以上で所定のせん断力に抵抗できる寸法を有するもの)をアンカーボルトに被せた後、その周辺を隅肉溶接でベースプレートに接合した上で、その上に座金を置いてナットを締め付ける旨が日本鋼構造協会が発行している「建築構造用アンカーボルトを用いた露出柱脚設計施工指針・同解説」の頁26に記載されていますので、参考にしてください。

基本および性能
  • 建築物の基礎構造とその特徴は?

    建築基準法施行令第66条に建築構造物の柱脚は露出形式柱脚、根巻き形式柱脚、埋め込み形式柱脚が規定されています。この3種類の柱脚の中で構造用アンカーボルトの規格は露出柱脚に使用するものであり、露出形式の柱脚は他の2種類の柱脚に比べて構造が簡素で施工もしやすく、コストも安く出来る特徴をもっています。但し、通常は他の2種類の柱脚より低い建物、即ち使用される柱(鋼管)のサイズが小さい方に使用されています。

  • アンカーボルトの役割と必要な機能は?

    アンカーボルトは鋼構造建築物の上部構造(建物)と基礎コンクリートとをつなぐ重要な部品です。本規格の規定では大地震時に露出柱脚部に生じる大きな歪み(回転変形)をアンカーボルトの塑性変形で吸収できる性能を有するものとして、ボルト、ナット、座金のセットで規格化されています。柱脚としての構造性能(耐力と回転剛性)はボルトのサイズ゙、本数などを適切に設計することで確保されます。

  • アンカーボルトの必要耐力とは?

    アンカーボルトの必要耐力という前にボルト、ベースプレート、基礎コンクリートなどの柱脚としての耐力がまず問題となります。また、耐力は柱脚が変形する前の剛体としての耐力(許容耐力)と柱脚の一部が塑性変形して最終的に破断する耐力(終局耐力)があります。これらの耐力は露出形式柱脚各部をどのように設計するかという設計条件によって異なります。従ってアンカーボルト自体の必要耐力は設計条件に応じて決まることになります。

  • アンカーボルトに必要な伸びとは?

    露出形式柱脚に使用するアンカーボルトはネジ部だけが部分的に伸びるのではなく、軸部全体も伸びて地震時の歪みを吸収させなくてはなりません。10階以下程度の中低層の建物では地震時に塑性化して伸びる部分(有効長さという)がボルト軸径の20倍以上あれば、この有効長さの部分が3%以上伸びて地震時の歪みを充分吸収できるといわれています。(アンカーボルトメーカー協議会発行のパンフレット9ページに伸び能力が掲載されています)。

  • コンクリートの付着力は?

    アンカーボルトの耐力にコンクリートの付着力が影響するのはボルトが伸びるまでの弾性域内であって、この間はボルトとコンクリートが一体として剛体となって働いています。ひとたびボルトが塑性して伸びる段階ではコンクリートの付着力は耐力に関係がありません。

  • アンボンドスリーブは必要ないのか?

    ボルトの塑性伸びが問題となるのは大地震時であり、この時はボルトも伸びて細くなります。ボルトが伸び出す段階ではコンクリートの付着は切れていますので、アンボンドスリーブを使用しなくても問題はありません。この点は多くの実験で確認されています。

  • 必要な伸びは、アンカーボルトのどの部位間で考えるか?

    アンカーボルトを柱脚としてセットした時のいわゆる有効長さといわれる部分です。有効長さの上端はベースプレートのすぐ上のナットの下面と、下端は定着板の下面のナットの上面で、この上下間のボルト長さが有効長さです。

  • 定着板の役割は?

    定着板はアンカーボルトの下端部を固定(定着)する役割を担うものです。ボルトが塑性変形してコンクリートとの付着力が切れた後もボルトが破断するまでボルトを保持すると同時に、コンクリートによる抵抗を確保するために必要です。

  • 定着板の規格は?

    定着板の役割は、前述のとおりです。定着板はコンクリート中に埋め込まれているため、その強度は定着板を起点とするコンクリートのコーン状破壊耐力以上が必要となります。そして、コンクリートのコーン状破壊は基礎コンクリート中のアンカーボルトの位置の影響を受けます。一般にはそのボルトに対応した座金程度の大きさがあれば十分その働きをするといわれています。板厚はボルト径に応じて変りますが、その適切な寸法サイズについて、必要最低限の標準寸法・形状と設計基準が規格解説に記載されています。また、これを基とした協議会の推奨寸法も公表されています。

  • JIS規格「基礎ボルト」との関連は?

    JIS B 1178基礎ボルトは建築構造用に使用する目的に限定して規定された物でなく、設備機器の固定や負荷の大きくない構造物の固定用に規定されています。従って引張強さは400N級であっても伸び能力は規定されていません。ねじ部は通常の棒鋼の寸法公差のものに切削ねじをたてたものであり、降伏後はねじ部に応力が集中して伸び破断してしまうため、建築構造用には向かないものです。

  • M16未満やM100超えはなぜ規格にないのか?

    露出柱脚用に使用されているアンカーボルトサイズを調査して、M16未満はほとんど使用されておらず、上限のボルトサイズも露出形式の柱脚に使用されている柱サイズを考えて上限をM100としています。この規格で設定しているアンカーボルトABR400、ABR490、ABM400、 ABM490では、サイズM16からM100まででねじ部降伏耐力を37kNから2060kNまで網羅しており、通常の建築構造用のアンカーボルトとしての設計範囲は十分網羅しています。

JSS規格アンカーボルト
  • JSS規格アンカーボルトとは何でしょうか?

    JSS規格は、日本鋼構造協会が塑性変形能力に富んだアンカーボルトの規格として、2000年に制定した規格です。2004年に改訂版が作成され広く使用されてきましたが、日本鋼構造協会によるJSS規格工場認定制度が2015年3月末をもって終了し、JIS規格認証制度による品質保証体制に受け継がれました。JSS規格工場認定の主旨は建築構造物全体の品質保証システムの一環として、建築構造物の柱脚に用いる構造用アンカーボルトの製造体制から品質保証システムを審査し評価認定保証するためのもので有る為、認定制度が終了した現在はJSS規格品に対しての第三者機関による製造、品質管理体制の保証が有りません。